__「何やってんだよ」
自分にそう言ったつもりなのに、妙にリアルに、その声が耳の間近で聞こえた。
気のせいと思いつつも、隣には確かに人の気配があった。
ちらりと視線だけをそちらにやると、広瀬はグレーに染まりかけた空を見上げて、その空に向かって面白くなさそうに唇を突き出していた。
「面倒になってるのは、友情が絡んでたからか」
「広瀬、いつからいたんだよ」
「ずっといたよ」
全然気づかなかった。
広瀬は学校でも目立たずにはいられないタイプだから、俺のように気配を隠せないはずなのに。
坂井さんと園田のやり取りに、自分がどれだけ神経を研ぎ澄まして集中して見聞きしていたか、真冬なのに背中や脇に感じる湿り気と共に今さらながら気づいた。
「てか、勝見と園田が恋敵って、ウケるんだけど」
広瀬はおかしそうに「はっ」とひと笑いこぼして言った。
だけど、その声の中には切なさが滲んでいた。
切ないというか、何とも悲しげだった。
その理由が、次の言葉でわかった。
「知ってたの? 園田の気持ち」
声の調子を急に神妙なものに変えて、広瀬は俺に聞いた。
俺は広瀬の質問に、だいぶたってから答えた。
これまで抱えてきた、たくさんの切ない思いと、思い出を整理しながら。
「……うん」
知ってたよ。ずっと。
園田が坂井さんのこと好きなこと。
それを知ってて、俺は坂井さんに告白した。
知ってて、彼氏になった。