俺は校舎の冷たいコンクリートの壁に背中をぺたりと付けて空を仰いだ。

__園田も、ひとめぼれ。

うっすらと雲に覆われた空から、「うん」という、ゆっくりとした返事がほろりと降ってきた。
その言葉の先を、俺は勝手に想像した。
そこに、いろんな形の未来を添えて。

「じゃあ、私、そろそろ……」
「あ、うん。あっ、あの、門まで、一緒に行っていい?」

ぎこちなく言う園田の声は、先ほどまで聞いていた声とははるかに違っていた。
力強くて、勢いがあって、いつもより心なしか明るい。
その表情まで、見えてきそうだった。

園田は坂井さんの「うん」の続きに、どんな未来を描いたんだろう。

「うん。じゃあ、そこまで」

足音が遠ざかっていく音を確認して、俺はようやく、校舎の陰から顔を出すことができた。
先ほどまで二人が立っていたと思われる場所には、まだほんのりと、淡い青春の空気が漂っているようだった。
少しでも風が吹けば、その空気はさらさらと流れて、過去という名前に変えて空に消えていく。
過去にも戻れず、未来にも進めない俺だけが、今ここに、残されている。