「あいつ、今日、出発しちゃうんだよ」
震えた園田の声が、儚げに落ちる。
「今日、今伝えなかったら、もうずっとこのままかもしれないんだよ。次はないかもしれないんだよ。あいつに、他に好きな人、できるかもしれないんだよ。彼女できちゃうかもしれないんだよ」
湧き出る感情を顕わにする園田の姿を背中で感じて、俺は踏み出そうとした軸足をさっと後ろに引いた。
飛び出して行くことが、できなかった。
今園田が言った言葉は、そのまま俺にも同じことが言えるのに。
坂井さんにだって、他に好きな人ができるかもしれないし、彼氏ができるかもしれなくて、それは、いま彼女の目の前にいる男かもしれないのに。
本当に「次」はないのかもしれないのに。
だけど、そう分かっていても、俺は、飛び出していくことができなかった。
だって園田は、泣いていたから。
姿は見えてないけど、震えるその声が、教えてくれた。
だけど俺にはわからなかった。
だって、それでいいじゃん。
俺に好きな人ができて、その人と付き合えば、坂井さんは俺のことなんか忘れて、園田を見てくれるかもしれないじゃん。
意識してくれるかもしれないじゃん。
チャンスじゃん。
そんなこと、言う必要ないのに。
泣く必要ないのに。