彼女を抱きしめる代わりに、ボールを抱えた手にぎゅっと力をこめたところで、俺の回想のほんの一部分を園田に話す坂井さんの声が止んだ。

「そういう、ことだったんだ」
「あんな約束忘れて、さっさと行っちゃえばいいのに。勝見君、何考えてるんだろう。私とのことなんて、なかったことにしちゃえばいいのに。忘れちゃえばいいのに。そしたら、すがすがしく留学できるのに。こんなの置いてったら、私、勝見君のこと、吹っ切れないじゃんね」

呆れたような笑い声の中に、涙声がかすかに滲み始める。
小さくなっていく声に、胸がものすごい力で締め付けられる。

なかったことになんて、できるわけない。
忘れられるわけない。
手放したくない。
できることなら、連れて行ってしまいたい。
もう一度伝えたい。
キーホルダーなんかに頼らず、自分の言葉で。