「でも、それって、勘違いってこともない?」
「え?」
「私の経験上、一目ぼれの恋って、上手くいかないから」
 
坂井さんはうつむいたまま、ぽつりぽつりと話し出す。

「勝見君のこと好きだけど、一目ぼれって聞くと、どうしても不安になっちゃって。今まで一目ぼれの恋なんて、上手くいったことないから。それなのに、お互い一目ぼれして、両想いになれて、さらには付き合うこともできて。こんなの、上手くいきすぎだよ。いつか、ダメになっちゃう日が来るんじゃないかって、思っちゃうぐらい」

__経験上。つまりそれは、坂井さんが経験した、いくつかの恋。

切なげなその表情に、俺の胸まで締め付けられる。
昔の恋を思い出して、そんな顔、してほしくなかった。

そりゃ坂井さんにだって、好きな人の一人や二人、いたに決まってる。
俺と出会うまでに、恋ぐらいしているに決まっている。
だけど、実らなかった恋とは言え、今それを思い出して切なくなる坂井さんを見ていたくなかった。
その恋の経験を、今している俺との恋に重ねてほしくなかった。
俺たちのこの先が、同じような結末を迎えるなんて、思ってほしくなかった。

俺はそんなこと、させない。

俺は彼女の腕をつかむ手に、ぐっと力をこめた。