「今まで勝見君のことなんて意識したことなかったのに、何とも思ってなかったのに、あの瞬間から、全部が好きになった。勝見君の醸し出す空気感とか、声とか、笑い方とか。それで知ってくうちに、もっと好きになった。シャープペンを握る手も、問題文をなぞる指先も、カッターシャツから伸びる腕も。リフティングしてるとこも、走ってるとこも、絵が下手なとこも。匂いも、体温も。全部好きで、どんどん好きになる。見つけるものすべてが、好きになる。不思議だよね。普通そっちが先なのに。相手のことを知って、友達になって、もっと知って、順を追って少しずつ好きになって、恋になるのに」

「ヘンなの」と、彼女はおかしそうに笑った。

その笑顔に、釘付けになった。

「勝見君だって、同じでしょ?」
「え?」
「私にひとめぼれしたって、言ってたから。勝見君は、どうして私に一目ぼれしたの? そんな要素、あった? 私、かわいくもないし、頭もよくないし、明るくもないし。どっちかって言うと、地味だし、不器用だし」
「えっと、それはたぶん……」

言いよどんだけど、本当は、わかってた。
そこに当てはまる言葉を。
だけどそれを言うには、ちょっと恥ずかしすぎた。

「運命」なんて言葉、俺には似合わない気がするから。