「もしもし、勝見君?」
「あ、坂井さん? あのさ、今家の前にいるんだけど、少しだけ出てこれる?」

そう言うと、家の二階の端の部屋のカーテンが揺れた。
スマホを耳に当てた彼女の姿がちらりとだけ見えた。

「今行く」

その数秒後、彼女は家のドアをそっと開け、そっと閉めてから、小走りで俺のもとにやってきた。
その表情がどこか嬉しそうだった。
その顔を見られただけで、来てよかったと思った。

「ごめん、急に」
「ううん。どうしたの?」
「あ、えっと……今日、会いたいなと思って。クリスマスイブだし」
「そうだけど、今日の埋め合わせはまた後日って……」
「そうなんだけど……」

ここで広瀬に「会いに行け」と言われたなんて、言えるはずもない。

俺たちの間を、冷たい風が渡っていく。
その風が、俺の体や顔にかすかに浮かぶ汗を冷やしていく。