最終下校時刻のチャイムが鳴って、私たちは慌てて学校を出た。
迫りくる夏本番に合わせるように、太陽も長い時間地上にその姿をとどめるようになった。
日中地面を照り付けた熱が、放課後のこの時間になっても消えることはない。
クーラーのかかった校舎から出てくると、軽やかだった体は急に重くなり、さらさらとしたカッターシャツの肌感も、一気に湿り気を帯びて気持ち悪くなる。
夜が見えてこない空を仰ぎながら歩いていると、私の立ち位置に合わせて、キッという控えめなブレーキ音と共に、自転車が止まった。
「坂井さん」
その声に、胸がときめく。
声の方を見ると、自転車の荷台にまたがった勝見君と出会った。
「今帰り?」
「うん」
「まだ学校いたんだ。教室見てても、姿見えなかったし」
「ああ、えっと……どうしてもわかんない問題が何個かあって、職員室前の机で勉強してたんだ」
「そっか。わかんないとこ、いつでも教えるのに。最近、放課後も図書室来ないし」
「勝見君だって忙しいのに、迷惑かけられないよ。まだ部活もあるし、自分の勉強もあるし」
「迷惑なんて思ってないよ。俺は、坂井さんと一緒に頑張りたいんだから」
「きゃあ、勝見君かっこいい」と由美が両手で顔を覆って、その指の隙間からちらりと目を出している。
それに対して「え? 俺、イケメンじゃないけど」と勝見君が笑って返す。
そんな軽やかなやりとりに、微かな嫉妬心を覚える。
だけど勝見君はすぐに私の方に向き直って、心配そうな目を向けた。
「俺にできることがあれば、何でもするよ」
__勝見君にできること。勝見君にしてほしいこと。
その言葉に、あふれんばかりの想いが押し寄せてくる。
一緒に帰りたい。
手をつないで、カフェに行って、一緒に勉強して、少し遅くまで話して、家まで送ってもらって、それから……それから……。