「おい、おまえ、何しんみりしてんの?」

そう不満の声をよこしたのは、広瀬だった。

「え? なんで? 送別会だから」

俺はあくまで純粋に聞いた。
そして純粋に答えた。

「そんなキャラじゃないだろ」
「俺だってしんみりしたいときがあるんだよ。広瀬も今日ぐらいしんみりしろよ」
「冗談言ってる場合かよ。お前今日が何の日かわかってる?」
「送別会」
「違うだろ。クリスマスだろ」
「ああ、うん。そうだけど」
「そうだけど……じゃないだろ。お前、こんなとこで野郎とはしゃいでていいわけ? 付き合って初めてのクリスマスだろ? 彼女怒ってないの?」
「え? 怒ってないよ。三年生の送迎会なら仕方ないって。また後日埋め合わせするって言ったら、いいよって言ってたし」
「お前それ本気にしてんの?」
「まあ気ぃ遣ってくれてることぐらい、俺だってわかってるけど。でも、しょうがないじゃん」
「お前さあ、送別会と初めてのクリスマスどっちが大事なんだよ」
「どっちって……」
「どっちもだろ。頭いいくせになんでわかんねえんだよ」
「どっちもって言われても、体は一つしかないんだから。どっちにも行けないだろ」
「勝見のくせにモテる男子のセリフを言うな」
「別に普通じゃん」
「あのな、初めてのクリスマスは、今日しかないんだぞ。お前だけの問題ならまだいいよ。でも坂井さんの気持ちはどうなるんだよ。初めてのクリスマス、彼氏は私ではなく他の男といました。そんな思い出を彼女に刻み付けるのか?」
「それ、ちょっと意味変わってくるから」
「今すぐ行けよ。先輩には俺から何とか言っとくから。プレゼントは用意してあるんだろ?」
「してないよ」
「はあ? 何そんな重要なことしれっと言ってんだよ」
「また今度二人で買いに行こうって約束したし。だいたい何買っていいかわかんないし、気に入らないものもらっても、坂井さんだって嬉しくないじゃん。だったら一緒に買いに行って、欲しいものあげた方がよくない?」
「そこはサプライズだろ。女子はサプライズが好きなんだよ。男だったらどんとサプライズしろよ」
「俺、サプライズってガラじゃないし」
「いいんだよ、そんなガラとか気にしなくても」
「うーん。……いや、でも……」
「ペアリング買おうぜ」
「え?」
「ペアリング。絶対喜ぶぞ。サプライズできなくても、サプライズになる」
「ちょっと意味が分かんない。だいたいペアリングなんて、俺たちまだ付き合って一か月くらいしかたってないのに、重すぎじゃない? しかもそんな金残ってないし。もうすぐ閉園時間だから探して選ぶ時間もないし」
「じゃあせめて、おそろいのものとか? トレーナーなら種類もいろいろあるし」

広瀬はそう言いながら壁に展示してあるトレーナーを指さした。
確かに、キッズから大きめのメンズ物まで、サイズ展開は幅広い。

だけど……

「……ないわ」

この場で着るならまだしも、プレゼントで持ち帰って一体いつおそろいで着るんだ。
ペアルックなら、まだペアリングの方がいいだろう。