「ごめん、園田君」
その声に、一瞬で現実に引き戻されて、再び耳が大きくなる。
「私ね、今は、自分と向き合いたいって思ってるの。だから……」
__だから……
「今は、好きな人とか彼氏とか、作らないって決めたの。だからね、勝見君のことも、勝見君とも……このまま終わりにしようと思う」
ほっとする準備をしていたのに、その答えを聞いて体がぐらりと傾いた。
組んだ両手の指先がはらりと離れて、下から抱え込むように持っていなければ、きっとボールは、俺の手からするりと落ちていただろう。
体から力が抜けていく。
心にぽっかりと穴が開く。
先ほどまでうるさかった心臓の音が、急に静かになる。
風も吹かない。
俺の周りにも、俺の中にも、もう何もない。
その空っぽの中に、坂井さんの声だけが儚く広がっていく。
「ほんとは、ちゃんとお別れ言って終わらせなきゃいけなんだけど……」
彼女の言葉が止まったと思ったら、どこからか、しゃららんという清らかな音が鳴った。
「これが、ね……」
困ったような、切なげな坂井さんの声が聞こえた。
耳に届いたその声と小さな鈴の音に、俺は自分のコートのポケットの上を、そっと撫でた。
そこからも、微かにシャランと小さな音が聞こえたような気がした。