そして、今に至る。

校舎のコンクリートの壁の向こう側で繰り広げられている青春を、坂井さんの答えを、俺はじっと息をひそめて待った。

__断る、よね?

心の中で、俺はそうつぶやいた。
だけど、俺のその言葉に同調してくれる人は誰もいない。
いたとしても、自信がない。

坂井さんの答えを聞くのが怖い。
それなのに、聴覚は冴えわたる。

__断ってほしい。

期待が願いに変わった時だった。

「ダメだよ」

その小さな声を拾い上げた瞬間、いつの間にかぐっとつぶっていた目を、俺はぱっと開いた。

「そんなの、だめに決まってるじゃん。園田君だって四月からは大学生になるんだから。一緒に浪人なんて、そこまで図々しくないよ」

坂井さんが園田を気遣って、冗談交じりに、やんわりと告白を断った。
そう思いたかった。

坂井さんは優しいんだ。
そう思えば、俺は安心できた。
ほっと胸をなでおろせた。

それなのに__

「それでもいいよ」

__え?

「え?」

俺の心の声と、坂井さんの声が重なった。
そのはっきりと力強く放たれた言葉に、俺は隠れながら壁の向こうにいる二人の声に目を向けた。

「僕も浪人しても構わない。坂井さんと一緒の大学を受け直す」
「園田君、何言ってんの?」
「僕なら、坂井さんを寂しくさせない。辛い思いもさせない。いつだってずっとそばにいる。楽しい時も、苦しい時も、泣きたいときも。会いたくなったらいつでもどこからでも会いに行く。話したいときはいつでも電話をとれるようにしておく。どんな予定よりも坂井さんを優先する。坂井さんと一緒にいられたら、僕は、幸せだから」