「そもそも、なんでこんなことになってんだよ。お前ら上手くいってたんじゃねえの? いつから?」
「いつからって、さっき広瀬も言っただろ。ずっと……だよ」

正直、どこが起点かは、俺にもわからない。
いつからこのひずみが生まれていたのか、俺が知りたい。
だから俺は、ぽつぽつと話した。
俺自身が、そのはじまりを探すように。

坂井さんに留学のことをいつまでも言わなかったこと。
坂井さんに思わぬ形で留学がバレたこと。
そして、文化祭での喧嘩。
それ以外、何かあっただろうか。
思いつくすべてのことが原因のような気がするし、他にもまだまだあるような気がした。
いや、確かに、あるんだ。

「だいたい、何で言わなかったんだよ、留学のこと。そりゃあ坂井さんも怒るだろう」

違う。
言わなかったんじゃない。
言えなかったんだ。

「言ったら……坂井さん、辛いだろ?」

言えなかった本当の理由を飲み込んでから、軽い口調で誤魔化した。

「そんなんわかってたことじゃん。わかってて留学決めたんだろ?」
「そうだけど……」
「このままでいいのか……よっ」

語尾と同じくらい強めに、広瀬はボールをこちらに蹴り上げた。
いつもなら体のどこかを使って受け止められるはずなのに、俺は足を延ばすことすらせず、ぼんやりとそのボールを見送った。

「おい、何やってんだよ。ボール行ったぞ」

ぼんやりしたままの俺に、広瀬が叱咤する。

「わかってるよ。ああもう、めんどくせえなあ」

広瀬の厳しい目から逃げるように、俺は転がって言ったボールを追いかけた。