いつまでもボールを足元で弄び続ける俺に、広瀬が遠慮がちに聞いた。

「お前ら、なんかあったの? 最近ラブラブしてないなあとは思ってたけど。……別れた……とか?」
「うーん……」
「え? マジ?」
「別れては、いない?」
「俺に聞くなよ。俺が聞いてんだよ」

「ははっ」と笑う俺を、広瀬は真剣な顔で「何笑ってんだよ」とやっぱり怒る。

俺は足元で押さえつけられていたボールをいったん自由にさせてから、広瀬に言った。

「坂井さんには、今日出発ってこと、言ってない」
「はあ?」

広瀬の唖然とした声が、ひっくり返って聞こえてきた。

「なんでそんな大事なこと言ってないんだよ」
「うーん……なんとなく」
「今言えよ」
「いや……」
「いや……、じゃねえよ。俺が連絡してやるよ」

そう言いながら広瀬はスマホをいそいそと出して操作する。
俺はそれをうつろな目でただ見守った。
抵抗も何もしなかった。

「……って俺、坂井さんの連絡先知らないじゃん」

そういうことだから。
だから思わず「はっ」と口から笑い声が漏れた。

「お前笑い事じゃないだろ。自分のことだろ?」
「いや、そうなんだけど、広瀬が間抜けすぎて」

「なんなんだよ」と広瀬は不服そうな顔をして、地面に置かれた鞄の上にスマホを乱暴に放った。