広瀬とこうしてパス練習をしていると、また新たな戦略を練っているのかと勘繰られるけど、なんてことはない。
話すのはいつも部活とは関係ないことばかりだ。

授業がだるいとか、先生の悪口とか、最近はまっている漫画やゲームのこと。
誰と誰が付き合っていて、「面白くねえなあ」、というぼやき。
「彼女欲しい」という本音。

パス練習なんて形だけで、グラウンドでゲームが始まるまでの時間つぶしをする口実みたいなものだった。
その時間がたまたま、コートの中での信頼関係をいつの間にか作っていたというだけだ。

いや、信頼関係なんて、かっこいいものじゃない。
なんとなく感じる、心地よい空気。

広瀬とこうしてパス練習をしているとなんとなく安心するのは、こうした時間の積み重ねなのだろうか。
話した会話の数が多いからだろうか。
ほんの一瞬なのに、手のひらが軽く重ねられる瞬間が思い出せるのは、それだけ多くの喜びを分かち合ったからだろうか。
背中をたたかれる軽い衝撃がよみがえるのは、それだけ多くの悔しさをともに乗り越えてきたからだろうか。