「馬鹿だなあって思うよね。受験もせずに、一年無駄にして。親にも先生にもかなりいろいろ言われたけど」

彼女はそんな自分に呆れたように笑いながら言った。
だけどその顔が再び曇り、切なさと寂しさが滲み始める。

「浪人だからさ、きっと今年の受験よりもずっと苦しくなるのはわかってるよ。同級生が楽しく新生活を送る中、今度は独りで頑張らないといけない。由美も園田君もいない。きっと寂しくなったり、惨めになったりするんだろうなって思う。でも、それ覚悟で、頑張ろうと思う」

最後に彼女は、僕にきらめく視線を投げかけてそう言った。
少しうるんだその瞳に、僕の心がざわつき始める。


__「じゃあ園田も、逃げずに答えてみろよ」


あいつの声が、僕の心を煽りだす。


__「俺がいなくなったら、園田はどうする?」


__あいつがいなくなったら……


「……僕じゃ、だめかな」


「……え?」

きょとんとしてまん丸くなる彼女の目をまっすぐ見つめて、僕は震える声で言った。

「僕が、坂井さんの隣にいちゃ、ダメかな?」