校舎を出て部室に向かった。
冷たい風が僕の鼻先ばかりをいじって、冷たく、鼻水を誘い出す。
まだ二月のはじめだというのに、その風にはかすかに春の気配が感じられた。
部室までの道を、その風とともに歩いた。
追い風にならないところが、なんだか僕らしい。
校舎の角を曲がろうとしたとき、陰から出てきた人と鉢合わせた。
ちらっと見えたのが女子だとわかって、僕は慌てて手を挙げてぶつかりそうになるのを回避した。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ……」
そう言って顔を上げたのは、坂井さんだった。
僕の瞼がぐっと持ち上がり、口はだらしなくぽかんと開け放たれる。
「坂井……さん」
「ああ、園田君だったんだ。ごめん」
「あ、ううん。こちらこそ、ごめん。大丈夫だった?」
「全然平気だよ。園田君は、学校で勉強?」
「ううん、今日はちょっと用事があって。坂井さんは? 最近塾には来てないみたいだけど」