三学期が始まると、三年生は自由登校になって、それぞれがそれぞれの志望校に受験しに行く。
日を追うごとに、三年生の教室が並ぶ階の廊下はひっそりと静まり返り、いつもは各教室から漏れ出す賑やかな声も消えた。
いつもクラスメートでいっぱいだった教室も、ぽつぽつと空席がある。
三学期は残りあとまだ二か月もあるというのに、クラス全員がそろってこの教室を埋める日はもう来ないような気がして心細くなる。
なんだか落ち着かなかった。
律儀に五時間目終了のチャイムを聞いてから、寂しい教室を出た。
そして僕はとぼとぼと校舎の中を歩いた。
この学び舎からあふれ出るような思い出はない。
だから、その辺にこぼれていそうな思い出を、僕は丁寧に拾い上げるように歩いた。
図書室、体育館横の変な隙間、自転車置き場、職員室。
そのほとんどの思い出の中に、あいつの姿があった。
あいつはいつだって、僕の隣にいたから。
__「俺がいなくなったら、園田はどうする?」
その言葉を、何度も頭の中に浮かべた。
だけど、出てくる答えはいつも同じだった。
何も、変わらない。
あいつがいなくなったからって、僕が坂井さんをどうにかできるわけではない。
「会いたい」やら「意識して」なんて、僕から発せられたとは到底思えない言葉たちが出てきたからって、今後同じようなことができるとは思えない。
あれは、美しい青春用語を借りれば「奇跡」や「勇気」という言葉で大いに称えられるんだろうけど、あれはただの事故だ。
そのメッセージのその先を、その意味を、僕が坂井さんに真正面からぶつける日は、来ない気がする。
だから、あいつがいなくなったところで、何も変わらないんだ。