「じゃあ園田も、逃げずに答えてみろよ」

「え?」

その言葉に顔を上げると、あいつの冷ややかな顔に迎えられた。

「俺がいなくなったら、園田はどうする?」
「……どうするって……」
「関係ないって、何で言えるの?」
「だからそれは……」
「仲直り、していいの?」

そのやりとりの間、僕の心臓はドクン、ドクンと大げさに跳ね始める。
体中の血液が、血管をものすごい速さで巡っていく。
カサカサになった僕の口元だけが、何かを言いたがって、ふるふると震え始める。
乾燥し始めた瞳が潤いを求めているのに、瞬きひとつできない。

そんな姿の僕をよそに、あいつはふっと笑った。

「今さらだけど、正式に留学決まったから」
「……え?」
「卒業式の前に、出発するから」

あいつは先ほどとは打って変わって、とてもまろやかな笑みで言った。

「坂井さんには……」

そこまで言って、あいつは言葉を切った。
優し気な表情は、一気に切なげなものに変わる。
うつむいたその目も、どこを見ているのかわからない。
あいつはその先の答えを言う代わりに、ぐっとこぶしを作ってから、いつもの笑顔を僕の方に向けた。

「園田は、見送り、来いよな」

それだけ言うと、あいつは片手を上げて「じゃな」と言って僕に背中を向けた。
僕の自転車にも、もうまたがらない。

風がヒューっと音を立てながら、僕の額や首筋にうっすらと浮かんだ汗を冷やしていった。