__二人はまだ、あの文化祭の日のままなんだ。

あの日何があったのか。
僕が知っているのは、あいつの進路が原因で二人は喧嘩をしているということ。
そして、あいつが坂井さんに、言った言葉。

「あのさ……」

無意識に飛び出た僕の声は、思いのほか落ち着いていて、淡々と放たれた。
そんな僕の、聞こえるか聞こえないかの細々とした声に、あいつは「ん?」と軽く反応して振り返った。
僕はゆっくりと顔を上げて、あいつと視線を合わせた。
全然ドキドキなんてしなかった。
心臓はいつも以上に穏やかで、音もなくて、止まってしまったかのように静かだった。
その静けさの中で、ぽかんと空いた僕の口元からはっきりとした滑舌で放たれた。

「坂井さんに、僕と付き合えばって言ったって、ほんと?」

耳に聞こえたその声は、僕の物ではない気がした。
その言葉で、あいつの細い目がさらに細められたのが、この暗がりの中でもわかった。
その目が厳しく僕をとらえているような気がした。
その目に気圧されて、一瞬後ずさりそうになった。
だけど、ぐっと足元に力をこめてこらえた。

僕たちの間に、慣れない緊迫した空気が流れる。
だけど、その重たい空気を一気に消し去るように、あいつはその表情を崩して、軽い口調で言った。