駅に着いて電車を降りると、一気に現実に引き戻された気分になった。
感じる寒さも、夜のひっそりとした静けさも、パークのそれとは全然違った。
夢の国がすっかり遠のくと、すでに卒業式も終えてしまったんじゃないかと錯覚してしまう。
僕は駐輪場に自転車を取りに行った。
自転車置き場から自転車を引き出していざ乗ろうとすると、目の前に、あいつが立っていた。
何の気配もなかったから一瞬びっくりして、自転車を倒しかけた。
「お疲れ」
あいつの穏やかな声が、冬の寒空に放たれた。
「お、お疲れ」と、僕もぎこちなく返事をする。
ちらりとだけあいつの姿を目に捉えると、すぐに視線をそらした。
目を合わせるのが怖かった。
こうして向かい合っているだけで、体が委縮する。
自転車のハンドルを握る手に、思わず力がこもった。
「なあ園田」
懐かしいその声が、胸をじんわりと熱くする。
僕が知っている、いつものあいつの声だったから。
「後ろ、乗っていい?」
そう言ったあいつを、僕はぼうっと見つめた。
「ダメ?」
「え? あ、ううん。いいけど」
僕が答えると、あいつはあの頃と同じように、僕の自転車の荷台にまたがった。
久しぶりに感じるその重みに、なぜか安心感を覚える。
その安心感を肩にも感じながら、僕は足に力をこめて自転車をこぎ出した。