あいつはすでにその群れの中にいた。
部員たちと話すあいつは、いつもと変わらないように見えた。
目尻を下げて笑っている。

「あ、園田」

広瀬に声をかけられて、僕はゆっくりとその群れに向かっていく。
だけどなぜだか心臓はバクバクと鳴っていた。
あいつに近づくにつれ、その音は早く、大きくなっていく。

あいつと、何を話したらいいんだろう。
どんな顔して会えばいいのだろう。
またあの空気に触れてしまったら、どうしよう。
あの拒絶に似た、冷たい空気を。

「おっせえよ」とぼやく広瀬に、「時間通りだよ」と言ってにらみつけるのがやっとだった。

あいつとは、目を合わせられなかった。
そのあとすぐに電車が来て、ぼくたちはぞろぞろと電車に乗り込んだ。

これから電車で一時間のところにあるテーマパークに向かう。
クリスマスに、学ラン男子十数人で、テーマパーク。
はたから見ると、ちょっと痛々しい光景だ。
本当は彼女とか、好きな人とか、クラスメートでもいいから、女子と行きたいというのが本音だった。

女子というか、坂井さんと行けたら、どんなに楽しいだろう。
どんなに幸せだろう。

__坂井さん、今、何してるんだろう。

「坂井さん、今日は何してんの?」

一瞬僕の心の声がまた漏れ出してしまったのかと思って、思わず口元に手を持っていった。
だけどそれは、広瀬の声だった。
広瀬は僕が今一番知りたい質問を、あいつにしていた。

あいつはスマホを見ながら「うーん?」なんてとぼけた返事をする。

「クリスマスなのに、今年も彼女ほったらかしかよ」
「そんなんじゃないよ」
「もっとラブラブしろよ。クリスマスぐらい」
「クリスマスに浮かれてる受験生なんて、たぶん俺たちぐらいだぞ」

あいつはそう言いながら笑って、広瀬の話をはぐらかす。
そんなあいつを、広瀬は頭の上で腕を組んで面白くなさそうな顔をして睨んでいた。