「園田君、早いね。私が長かったのかな? ごめんね」
「ううん、ちょっと早く来すぎたから」
「そっか」

そう言うと、彼女は不自然に僕から目をそらした。

会話が途切れたんだから、そこで「じゃあね」なんて軽く挨拶をして別れたらいいのに、僕たちは気まずい空気を作りながらその場に立ちすくんだ。

「あの、園田君。朝は、ごめんね。由美が変なこと言いだして」
「ああ、別に、気にしてないよ」

僕の返事に、彼女はぎこちなく笑った。
安心してるのか、それとも、まだ気まずく思っているのか、どちらともとれる微妙な笑みだった。

「あ、そうだ。文化祭の日、ごめんね。途中で帰っちゃって。大変だったでしょ?」
「ああ、全然、大丈夫だよ。坂井さんこそ、火傷は、もう大丈夫なの?」
「うん。園田君がすぐに冷やしてくれたから、大したことなかったよ。お礼もちゃんと言わずにごめんね。ありがとう」
「ううん、大したことなくてよかった」
「ほんと、ありがとう。ずっと言わなきゃって思ってたんだけど、なんか、それどころじゃなくて」

坂井さんは気まずそうに、頬をポリポリと人差し指で搔きながら目をそらす。
「それどころじゃない」その内容は気になるけど、その仕草が、かわいい。