坂井さんが登校したのは、祭りがすべて終わった次の月曜日だった。
それまで坂井さんの姿を見ることはなかった。
塾でも、あのカフェでも。
だから今日、その姿を見られただけで僕はちょっと安心した。

教室のいつもの席で岡田さんと話す彼女の表情は、笑っているけど少し疲れている感じがした。
火傷をした手元に視線をちらりと向けたけど、遠目に見て何ともなさそうだ。

じっとその姿を見ていると、不意に坂井さんと目が合った。
その視線を追う様に、岡田さんも僕の方に顔を向けた。
だけど、僕を見つけたその美しい顔は、一気に般若のようになった。

「あ、園田君、聞いたよ。どういうこと?」

僕の方にずんずんやってくる岡田さんから、僕の足はもうすでに逃げ出す準備をしていた。

え? なに?
もしかして坂井さん、あのメッセージのこと、岡田さんに話した?
それで怒ってる?
なに手出してんだって。
何調子乗ってんだって。
園田ごときが何やってんだって、怒ってる? 

ぶつかってきそうな勢いでやってくる岡田さんをかわすために、両手で自分を庇った。

「え、えっと、あの、あれは、その、手違いというか……」
「なんで教えてくれなかったの? 勝見君の留学のこと」
「……はい?」
「園田君は知ってたんでしょ? 勝見君が留学すること」

岡田さんの声はものすごく恐ろしく感じたのに、僕はその言葉にほっと胸をなでおろした。
思わず、「ああ、そのことか」なんて声が漏れると、岡田さんはさらに怖い顔を作った。
そんな顔も美しいんだなと、顔を近づけられてのん気にドキドキしてしまう。