「おい、園田、危ない」
ぐっと思い切り手を引かれて、僕はグラウンドに倒れこんだ。
よく焼けた筋肉質な足が乱れるように僕の目の前を力強く走り抜けていく。
どれが誰の足か、もうわからない。
その場で立ち上がれないでいる僕は、グラウンドに沸く歓声をぼんやり聞いていた。
その中に、ドクドクという心臓の音が混ざる。
歓声よりも、大きく。
走ったわけでもないのに、僕の呼吸は乱れていた。
倒れている僕だけが、まるで違う空間にいるようだった。
体育祭日和の青空に湧く歓声の中で、僕を包む空気だけが薄暗くて、周りの音さえこもって聞こえる。
僕は周りの光景を、ゆっくりと見た。
そして恐る恐る、視線を移動させた。
行きついた先に、あいつの姿を見つけた。
その場に座り込んで顔を伏せたまま、あいつは激しく体を上下させていた。
広瀬があいつにゆっくり近づくと、その顔があげられた。
その表情は、いつものあいつの顔だった。
目尻をふにゃりと下げた、穏やかな微笑みだった。
だから、気のせいにしてしまいたかった。
僕のそばを通ったときのあの冷たい空気は、やがてやってくる、少し早い秋の空気のせいに、してしまいたかった。