スターターが青い空を貫くと、選手たちがつむじ風を作って僕のそばからいなくなる。
そうかと思ったら次々と瞬足の精鋭たちが帰ってくる。

僕は的確に指示を出した。
裸眼視力両目一・〇の僕は、ゴールギリギリまでその色を見極めていく。

そしてあっという間に、アンカーになった。
僕は走ってきた順に鉢巻の色を伝えて、アンカーの選手をスタートラインに並ばせる。

「次、赤」

そう言おうと口を開けた時、アンカーの証である他の選手よりも長めの赤鉢巻が僕の視界に入ってきた。
そして僕のそばを、さっと通り過ぎていく。
そのすれ違いざまに感じた、冷たい空気と鋭い視線に、体が一気に強張った。
緊張とは違うその空気に、声を失くし、息が詰まった。
殺気にも似たその空気が、僕を金縛りにあった時のように動けなくする。

その場で固まって次の指示も出せないでいる僕の目の前で、バトンパスがスムーズに成された。
駆けていくその背中を、僕はただ見つめた。
長い鉢巻が悠々とはためく。
どんどん前の人と距離を詰めていく姿をじっと見つめた。

半周したところであっという間に一位の選手と並んで、歓声がどっと上がった。
その時ようやく、あいつの顔が確認できた。
あいつには似合わない、鋭い目つきと、必死な表情と全速力。
こちらに突っ込んできそうな勢いが、巻き上げる砂埃からもわかる。
圧倒的な力強さと気迫が、どんどん、どんどん、こちらに迫ってくる。

それなのに僕は、動けない。