教室に入ってものの数分で、僕は広瀬の手によってメイクを施された。
「あの……これは……」
「ドラキュラだろ、どう見ても」
「ドラキュラって、角生えてたっけ?」
僕は鏡に映る自分の頭に生える摩訶不思議な物体を、そろそろと触った。
その他にも、僕の口からは血が滴っているし、牙みたいなものも張り付けられている。
目元はテープで釣り上げられていて、鏡に映るのは自分ではないみたいだった。
いや、これは僕ではない。
「あとは、これ着て」
広瀬は僕を立たせて、目の前から真っ黒なマントをひらりと僕の背中にかけた。
それを着せると、広瀬の顔が少し歪むのがわかった。
「ああ、ちょっと園田にはでかいか」
確かに、この黒いマントは僕の身の丈には大きすぎる。
見下ろせば、悔しいけれどその裾が地面について引きずっていた。
「勝見のサイズに合わせてあるからなあ。まあ、襲いかかるときにずっこけないようにだけ気をつけろ」
「お、襲う?」
広瀬は困惑する僕を気に留めることもなく持ち場まで連れて行った。
そこには十字架マークでおなじみのドラキュラの棺が横たわっていた。
トランシーバーだけ持たされて、「じゃ、よろしく」なんて広瀬は軽く手を振って去っていった。