「おっ、園田?」
突然名前を呼ばれて、僕の体が大げさに跳ねた。
声の方を見ると、口から血を流して、顔じゅう傷だらけにしている広瀬がこちらに近づいてきた。
「こんなとこで何してんだよ。入り口あっちだけど」
「別にお化け屋敷に来たんじゃないよ」
「じゃあ、何やってんだよ。ってお前ひとりなの?」
「うん」と馬鹿正直に返事できるほど、僕は寂しい男ではない。
だから、「うーん……」と濁して、広瀬から目をそらした。
「ああ、そうか。お前いつも勝見とまわってるもんな。その勝見が今日来てないから一人ぼっちってわけか」
「え? あいつ、今日来てないの?」
「そうなんだよ。昨日も途中で帰ったみたいでさ、知らない間に一部お化け不在になってて。今日も休むって連絡来てさ。今日のあいつの担当時間のお化け、どうしよっかなあって。みんな見たい出し物や参加したいイベントに合わせて担当時間決めてるからさあ。勝見ぐらいなんだよなあ、ずっと暇なの」
__昨日も、途中で帰った? 坂井さんと? それで、今日も休み? 二人は……
今……
「そうだ。園田、代わりにやる?」
ぼんやりと考え込んでいる僕の肩を、広瀬は両手でガチッと捕まえた。
顔を上げると、ギラギラと光る視線が僕をしっかりとらえて離さないつもりでいた。
「……へ?」
「お前もどうせ暇なんだろ?」
「いや暇じゃないし」
そんな僕の小さな抵抗の声は、もちろん広瀬の耳に届くことはなく、すべての言葉を言い終わる前に、「はい決まりー」と言いながら、広瀬はぐいぐいと僕の背中を押して教室に入っていった。