だけどその次の瞬間には、僕の手の中にあったはずの柔らかでほっそりとした愛おしいものは消えていた。

「俺が連れていくから」

代わりに耳に届いたのは、そんな冷たい声だった。
その声を聞いた瞬間、僕の心臓が凍り付く。

僕は声の方に振り返らなかった。
振り返らなくても、僕の手から坂井さんの手を奪っていった人物が、僕には当然のようにわかるから。

僕のもとから去っていく坂井さんとあいつの後ろ姿を、僕は見ないようにした。
その代わり、僕は空っぽになった自分の手をじっと見つめた。
そしてあの感触をもう一度思い出そうと何度も手を握った。