僕の焼き技に周囲が再びどよめいたその時だった。

「あかり、焦げてる」

その声に、僕の意識は瞬時に坂井さんの手元のたこ焼きに移った。
坂井さんが担当する鉄板のあたりのたこ焼きが焦げ始めている。
僕は咄嗟にフォローに入った。
別にたこ焼きを守りたいわけじゃない。
坂井さんが困っているからだ。

僕は坂井さんの後ろに回って、そこから腕を伸ばして急いでたこ焼きをつついた。
僕の視線の十センチぐらい下で、坂井さんは慌てふためいている。
動くたびに擦れ合う法被からは、焦げ臭さとは違うふんわりとした匂いが鼻をくすぐりだす。
その匂いや法被越しに感じる彼女の体温、彼女が醸し出す空気感に、昨日の光景が重なって、僕の手元が狂いだす。
ねじり鉢巻きに法被効果が、薄れつつあった。

「坂井さん、ここはもういいから、岡田さんの手伝いして」

自ら離れていかないと、僕も、このたこ焼きも、もうどうにもならないと思った。

「あ、うん」

坂井さんが離れてもなお、僕の心臓はまだどくどくと騒がしい。
たこ焼きは見事に焦げて、まったく形を成していない。
それでも僕はそのたこ焼きを救助し続けた。
どうにもならない自分の気持ちがたこ焼きに重なって、早く救助してやりたかった。

それなのに、

「あっつっ……」

その悲鳴に、無意識に体が動いた。

「坂井さんっ」

焦げていくたこ焼きをほったらかしにして、ピックを投げ出して彼女のもとに向かった。

「大丈夫? 火傷した? ……岡田さん、保冷剤」

僕の指示に岡田さんはわたわたと動いて、クーラーボックスから凍らせたスポーツドリンクのペットボトルを取り出した。

「これでいい?」
「ありがとう。坂井さん、大丈夫? 痛くない?」

僕は首に巻いていたタオルでペットボトルを包むと、それを坂井さんの手に巻き付けた。
冷やしつつ、彼女の手の様子をうかがった。