先生の言葉とは裏腹に、夏休みの成果はすぐにやってきた。
本来なら次の桜が咲くころ、桜の花と共に開花するはずだけど、僕の夏休みの成果は、もうすでに満開だった。
「えー、なんかかっこよくない?」
「すっごい。プロみたい」
周りからの賞賛が、僕の気持ちを一気に奮い立たせてくれる。
いい気分にさせて、何もかもを忘れさせてくれる。
受験のことも、あいつのことも、昨日の光景も。
文化祭本番、僕は狂ったようにたこ焼きを焼いた。
昨日のあの光景を、自分の頭から抹殺するように。
ふと気が緩むと、すぐにあの光景が浮かんでしまうから。
鉄板から立ち上がる湯気と熱にはもうすっかり慣れていた。
慣れた手つきでたこ焼きをピックでつつく。
面白いように丸い形になっていくたこ焼きたちを、僕はすっかり手なづけていた。
頭にはねじり鉢巻き、衣装代わりの法被。
服装は夏休みのバイトの時と何も変わらない。
この格好をするだけで気合が入って血が騒ぐなんて、ちょっと悲しい。
だけど今の僕には、これぐらいがちょうどいい。
「すごい、すごい。かっこいい」
そう言われて悪い気はしない。
むしろ何度でも言ってくれ。
刺さる視線と声に、僕の気持ちは高揚していた。
思わず手元のタコ焼きの回転数も上がる。
その芸当に「おおー」なんて派手な歓声が上がる。
「園田、なんか人変わってるぞ」
「練習の時は、こんな感じじゃなかったのに」
そりゃあ、できるだけ目立つことなく平穏に学校生活を送りたいと願う僕だ。
練習はみんなに合わせて初心者を装っていた。
ちょっと上手くいってしまうと「ちょっとだけやったことがある」なんて誤魔化していた。
だけど今日はそんなこと、気にしなかった。
すべてを忘れてしまいたい。
その一心で、僕はたこ焼きの回転数を上げていく。