「それは……」

だが何故か、翠翔の頬は少し紅くなっていた。

「君と俺が、(つがい)、だからだ」

「……ぇ」

体が石のように固まった。

だが、翠翔と目が合った瞬間のあの感覚、今この瞬間も彼と話すと胸が高鳴るのも、番だと言われれば納得がいく……気がする。

──だけど、どうして私なんかが……。

こんな綺麗な人の番なんだろう、と思う。
誓って嫌とかではない。ただ、何故だろうと思う。

それに先程から引っかかる、希龍という名前。
どこかで聞いた気がするのに、どうしても思い出せない。

「あの、希龍さんは──」

問いかけようとした時、少し離れた所から「翠翔さま!」と焦ったような男性の声がした。

「……祐希(ゆうき)か」

翠翔のよく知る人物のようだった。

祐希と呼ばれる男性は、走ってきたのか酷く息を切らして翠翔の斜め後ろに立った。

「はぁ……、こんなところに、いらしたん、ですか…………」

「言っただろう。少し息抜きがしたいと」

「ずっと待ってても帰ってこないから、心配したんですよ!」

すると、祐希が美雪の存在に気づき、かけている眼鏡を定位置に戻して、翠翔に問いかけた。

「こ、こちらのご令嬢は?」

「俺の番だ。美雪、彼は俺の秘書の雲龍祐希(うんりゅうゆうき)だ」

「な、なんと! 翠翔さまの番さまが!」

祐希は驚きながらも、嬉々とした表情をしていた。

秘書という言葉からすると、翠翔は社長かなにかだろうか。

「よ、よろしくお願いします……」

紹介をされたので挨拶はしとこうと、頭を下げる。

「どうぞ祐希とお呼びください。美雪さま。すぐに、屋敷と大旦那様に報告致しますね!」

挨拶を丁寧にさっと済ませたあと、スマホを取り出してどこかに電話をしだした。

「家まで送ろう」

翠翔の一言に、美雪は戸惑った。
いつもなら、この時間はまだ図書館で勉強をしている。
急に帰れば、両親からなにか言われるに違いない。

「い、家には、帰れません……」

美雪は、俯いて少し体を震わせて言った。

「──そうか。なら、俺の屋敷に来るか?」

「!」

美雪は、顔を上げて翠翔の顔を見た。

なにか詮索(せんさく)されるのでは、と不安だったのに一気にそれが無くなった。

彼の瞳からは、優しく温かみを感じた。何故か、それだけでとても落ち着く。

「いいんですか?」

「ああ。祐希、急いで屋敷に帰ろう」

「かしこまりました」