美雪は家族から、『愛』というものを受けた事が無かった。

愛されようと努力をしても、それら全て吐き捨てられて、冷めた目で見られる。

理由は、美雪自身が一番分かっていた。

──私が、女として生まれたから……。

美雪が生まれたのは、代々男児が受け継いできた資産家の家庭だった。

その家に、長女として生まれた美雪は、幼少期から両親に愛されずに育った。

食事を一緒にとることも許されず、物心つく前から身の回りの事もほとんど自分でしていた。

バイトなんてさせてくれるはずもなく、数ヶ月に一度貰うお小遣いでやり繰りしていた。

なにか成功しても、なにか出来るようになっても、自惚(うぬぼ)れるな。出来て当たり前の事だ、と言われてきた。



その後、生まれた弟との差は明確だった。

弟は、なにか出来ると「さすが、私達の息子だ」と褒められていた。

少しでも失敗すれば、怒鳴られる美雪。何をしても褒められ、怒られるどころか、同情される弟。

いつからか、姉と弟の間で差が生まれていた。

──差は元々あった。でも、いつの間にか弟が、葉悠(はるか)が私の事を姉として見なくなった……。

姉を見下すようになった弟。実の娘に対して、なにも思っていない両親。

いつからか、美雪の中にあった感情は全て消えていた。

泣くことも、笑うことも忘れ、ただ機械のように人の感情を模した表情しか出来なくなった。

──でも、あの人達が高校に行かせてくれただけ、幸運だった。

中学の担任の先生が、美雪の頭の良さを見越して、公立の偏差値の高い高校を勧めた。

私立校よりはマシだろうと両親は、その高校に行く事を渋々認めた。

無事、その高校に合格をした美雪。
家から少し距離はあるが、通えるだけ幸運でもあり、高校は美雪の為にもなっていた。

そして、七夏という友人と出会えた。

──小学校と中学校の頃は、一人も出来なかったな……。

近所の家は、美雪の家庭のことを知っている人もいたため、同級生と距離が出来ていた。

──でも、今の学校生活は少しいいかもしれない。

それは、美雪自身が気づかないうちに感じている、初めての感情だった。