『愛してる。ゆき──』

大きな手のひらが、「ゆき」の頬を壊れ物のように、優しく撫でる。

愛しい者を見つめるその瞳は、泣きそうな目をしていたが、決して涙を流そうとはしなかった。
必死に、涙を堪えているように見える。

『私も、愛しております。(すい)さま……』

「ゆき」の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。「ゆき」は、彼の手を両手で握る。

『翠さま──』

「翠」になにかを言ったあと、涙を流しながら微笑み、「ゆき」は目を閉じる。

「翠」が「ゆき」を呼ぶ声が聞こえる。
少しずつ、少しずつ声が遠のいていった。