一日ぶりに、家に戻ってきた美雪。
扉をゆっくりと開けて、静かに家に入る。
リビングの方から、テレビの音と両親の笑い声が聞こえる。
美雪はそっと、物音を立てないよう部屋に行き、荷物の整理をした。
と言っても、自分の荷物はほとんどないので、鞄には必要最低限の物しか詰まれていなかった。
長年過ごしたはずの自分の部屋は、空っぽで何も無かった。
部屋を出て、静かにリビングに向かう。
「お、お父さん、お母さん……」
呼ぶと、こちらをゆっくりと振り返った両親。
先程まで笑っていたはずの両親の表情は、無だった。
「なんだ。何か用でもあるのか」
親なら、帰る時間が遅いと叱ったり、心配したりするだろう。
だが美雪の両親は、そんなことする気が起きないほど、自分の娘に何の感情も持っていなかった。
美雪は勇気を振り絞り、頭を下げ、声を出した。
「……今まで、お世話になりました。私は、この家を出ます」
美雪は、顔を上げてしっかりと両親の目を見た。
「は?」
「ぷっ……あははははっ!」
父の驚くような声と、後ろからの笑い声がしたのは同時だった。
振り返ると、そこには弟が立っていた。
「は、葉遥……」
「ははっ……。帰ってきたと思ったら、家を出て行くだって? 家出して父さん達の興味を引こうっての?」
姉を見下し馬鹿にする弟に、美雪は静かに口を開いた。
「家出じゃない。出ていくの。私を待ってくれてる人がいるの」
「……姉さん、騙されてるんだよ。そんな人が、姉さんなんかを待つはずないじゃない。ああ、それとも……全部姉さんの妄想かな?」
葉悠は、姉を姉とも思わず嘲笑い続ける。