美雪は勇気を振り絞って、口を開いた。

「じつ、は……」

少しずつ、少しずつ話した。

家族から愛されていないこと、愛されようと努力をしてもだめだったこと。

途中、何故か涙が出そうになったが、それをぐっと堪え、話し続けた。



「だから、多分、あの人達は私の心配はしないと思います。なので、だいじょう──?」

突然、美雪は翠翔にぎゅうっと強く抱きしめられた。

「えっ、あの、あ、翠翔さん……?」

「すまない。君がそんなに辛い思いをしているとは、知らなかった……」

「辛いなんてこと、ありません。私にとっては、あれが普通で……」

目の前が、涙で滲んだ。
翠翔と出会った時は違う涙の気がした。

──どうしてかな。哀しいわけでも、辛いわけでもないのに……。

違う、と美雪は思った。

これが哀しい、辛いという涙なのだと。

ずっと誰かに聞いて欲しかったのだ。美雪が気づかなかっただけで、心はずっと辛かった、哀しかったのだ、と。

「ふ、うぅ……」

すると翠翔が、また強く抱きしめてくれた。

「泣いていい。ずっと泣けなかった分の君の涙も、俺が全部受け止めるから…」

翠翔は美雪が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。



「もう、大丈夫か?」

「はい。ありがとうございます」

泣き止んだあと、翠翔は心配そうに美雪の顔を覗き込んだ。

美雪が大丈夫だと意思表示をすると、翠翔はホッとしたような表情をした。

「君はこれから、どうしたい?」

「どう、ですか……?」

「これから、家に帰ることも出来る。ここにずっといることも出来る。だが、決めるのは君だ」

「私は……」

──ここにいたい。

美雪の答えは考える間もなく、決まっていた。

「翠翔さんと一緒にいたいです」

美雪は翠翔の瞳を、真っ直ぐ見つめた。

翠翔は驚いたのか、目を見開き、パッと美雪から顔を逸らした。

「君は、結構大胆なんだな……」

「?」

ぶつぶつと独り言のように呟いていたのは、美雪には聞こえなかった。

「いや。なんでもない」

そう言う翠翔の耳は、とても赤かった。

それがとても可愛く思えた美雪は、知らずのうちに笑みをこぼした。