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「翠翔さま、お休みにならないのですか?」

翠翔がずっと、机に向かっているのでそろそろ寝たらどうかと祐希から言われる。

「もう少しだけだ」

翠翔はずっと、同じことを繰り返している。

「早くお休みにならないと、明日の朝、美雪さまにお会いできませんよ」

「それは困る。だが……」

翠翔は、美雪に出会った時のことを思い出す。

──彼女を一目見た瞬間、心臓が鷲掴みされたようだった。番だと、すぐに分かった。流石に涙を流された時は、拒絶されたと思ってしまったが……。

今なら、嫌われていないことが分かる。多分。

だが、それよりも気になるのは、あの生気のなかった空虚な赤茶色の瞳。
感情のない、無の表情。

泣き顔と照れた顔を見た事はあったが、まだ笑顔を一度も見れていない。

一体、彼女はどんな人生を歩んできたのだろう。
翠翔は気になって仕方なかった。

「祐希……」

「美雪さまの身辺調査でしたら、もう終えていますよ。見るのは、翠翔さまの自由です」

ちょうど言おうと思っていたことを言われ、驚き、目を見開く。

「……感謝する。今すぐにでも見たいが。明日、本人に直接聞いてみる事にする」

「お話なさらなかったら?」

「……その時は、その時だ」


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