別の部屋に着くと、和食料理が並べてあった。
先程案内された部屋より、少し小さめの部屋だが、和室に変わりはなかった。
──た、食べたことない物ばかり……。
美雪は今まで、栄養が取れればいいと質素な食事を食べてきたので、刺身や寿司などといった物は食べたことがなかった。
──こんなに美味しそうなもの、初めて見た。
ふと横から、くすっと小さな笑い声が聞こえた。
見ると、翠翔が笑いを堪えるように口を手で抑えている。
何かおかしい事があっただろうかと、首を傾げる。
「いや、すまない……。君が、目を輝かせているのがとても可愛くて、少し笑ってしまった」
「え?」
──そ、そんな変な顔してたかな?
美雪は恥ずかしくなって、自分の顔を手で覆った。
「別に隠さなくてもいいんだぞ。可愛いからな」
「で、でも……」
美雪の顔は、湯気が出るんじゃないかと思うくらい赤くなっていた。
その後、夕食を食べ終えた美雪はお風呂に入った。
「……温かい」
湯船に浸かって、初めに思ったこと。
こんなに温かいお風呂はいつぶりだろうと、美雪は感動していた。
──それにしても、これは……。
湯船にぷかぷか浮かぶのは、龍の模様が入った木の桶。美雪はこの模様に見覚えがあった。
「希龍家の家紋と同じ…」
やっと、翠翔が誰なのか分かった───いや、分からない方がおかしかった。
あやかしの中で最も力を持つ龍。その中でも随一の能力を持つのが、希龍家だ。
希龍家は政治経済を掌握するほどに、力を持っていた。
そしてその希龍家の現当主が翠翔なのだ。
テレビやネット情報を見ない美雪でも、聞いたことはある。ただ、自分には関係の無いことだと頭から消えてしまっていたのだ。
──どうしてもっと早く思い出せなかったの、私……。