車に乗せてもらい、しばらくするとどこかに止まった。
外に出ると、日本家屋の大きな屋敷が目の前にそびえ立っていた。
「…………」
あまりの屋敷の大きさに、体が硬直する。
「大丈夫か?」
翠翔の声にハッとして我に返る。
一体彼は何者なのだろうかと、何度も思った。
ここまで凄いあやかしなど、そうそういるはずもないのに。
屋敷に入ると、使用人らしき人達が翠翔の帰りを待っていたかのように、深く頭を下げていた。
「「「お帰りなさいませ。翠翔さま」」」
翠翔の斜め後ろに立っていた美雪は、すぐに彼らの目に止まった。
すると、その中で一番偉そうな中年の女性が、嬉々とした表情で翠翔に言った。
「その方が、翠翔さまの仰っていた方ですね! お部屋の準備は出来ております。どうぞ、こちらへ」
美雪は行っていいのだろうか、と翠翔の方を見た。
「一緒に行こう」
翠翔は美雪の手を取り、優しく握った。
「は、はい……」
──どうしてかな、顔が熱い…。湯気が出そう。
翠翔に手を引かれて、案内された部屋は十五畳はある広さの和室だった。
「ひ、ひろ……」
「番さまにくつろいで頂けるよう、椅子やテーブル。押し入れにはお洋服がございます。お部屋の奥には、洗面所と浴室があります」
美雪の部屋よりも、はるかに広い。洗面所と浴室の分を足したら相当だ。
こんな広い部屋を一人で使うのは、到底無理だ。
「他にも、部屋はあるぞ。見るか?」
「い、いいえっ、大丈夫です!」
「そうか」
この広さの部屋やこれ以上のものは、流石に気が持たなそうだ。
──どうして私なんかの為に、ここまでしてくれるんだろう。
ここまで、人から良くされた事がない美雪は、翠翔たちの事が分からなかった。
彼が優しくて温かいことは、身に染みて分かる。自分がそれを、嫌がっていないことも分かっている。
初めて感じる、名を知らない感情がある事も。
「ご夕食は、どうされますか?」
先程、案内をしてくれた女性が翠翔に聞く。
「そうだな。もう夜も暗いし、今日は泊まったらどうだ?」
「そ、そこまでしてもらうわけには……」
「遠慮はいらない。それとも、君は俺と一緒にいるのは、嫌か?」
子犬のような寂しそうな表情をされ、美雪は黙り込んでしまった。
「……わ、分かりました」
断れず、翠翔の口車に乗せられてしまった。