いつものように小夜子は言う。少し笑い含みだった。今度はおかしそうに。
「明皓」
 俺を呼ぶ赤い唇を指でなぞる。小夜子は淡々と続ける。
「お前たちにこの世は暗い。お前には耐えられない」
「そんなの、関係ない」
 孤独で、暗い異界。異形の住まう夜見の国。何もない。
 ――だけど。
「ここには小夜子がいる」
 異界の少女は赤い唇で笑う。白く冷たい指先で、俺の頬を撫でた。


終わり