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「なんで結婚なんかしたんだよ。俺みたいに一生独身の方が都合がいいだろう」
「俺もそのつもりだったよ。でも理想の子に出会ったからしょうがないだろ」
「理想の子に出会ってなんで浮気なんかしてんだよ」

久しぶりに会った大学時代の友人と居酒屋に来ていた。
彼は春樹と言って大学卒業後はIT企業に勤めている。春樹はジョッキを傾け、一気にビールを喉に流し込むと一週間の疲れを吐き出すように「最高~」と言った。

「浮気って言っても体だけの関係だよ。それにすずは結婚する価値がある子だったんだ」
「はぁ?体だけだろうが何だろうが同じだろ。それにお前の奥さん、可愛いじゃん。一回しか会ってないけどめちゃくちゃいい奥さんだと思ったけど。そんな奥さんがいて浮気って最低だなー」
「いい奥さんだよ。俺が浮気しても疑うこともしないし。それにすずのお父さんは俺の働いている会社の重役だからね」
「はは、それで出世狙いか~。本当に打算的だよな、お前は」
「みんなそうだろ。女も男も」
「まぁそういうもんか?」

すずは所謂“親のコネ”で何とか入社した社員だ。大学だって大したところは出ていない。
社内でもそれは噂になっていた。
彼女もそれに負い目があるのだろう。結婚の話をしたらすぐに会社を辞めると言っていた。
すずとの結婚は俺の出世を明らかに早めただろう。
おそらく来年には海外赴任がある。
そのあとは同期の誰よりも出世は早いだろう。