…出るかな、出ないで欲しいな。でも分かってて出てくれないのも悲しいし、ここまできたらやっぱり出て欲しいかな…


「ーーはい」


真っ直ぐに聞こえて来たのは、懐かしい声。聞こえてきた瞬間、今までの考え事は全て吹き飛んで、心が反応する。


「あめさん…」


私は、無意識に彼の名前を呟いていた。

インターフォン越しだから正確には分からない。
でも、私の呟きを聞いたあめさんが息をのんだ、そんな気がしたその時。


「…ハルキ?」


彼が、私の名前を呼んだ。


たったそれだけ。名前を呼ばれた、それだけの事。それなのに、私の中、奥深くでよく分からない感情の渦が生まれる。

めちゃくちゃで、複雑に入り組んでいるその渦は、胸の中で暴れるように動めいて――ついに、溢れ出した。


「なんで、なんでですか?何なんですか?」

「…え?」

「なんで居なくなっちゃったんですか?どうして来てくれないんですか」

「ちょ、」

「ずっと、ずっと待ってたのに」

「…ハルキ、」

「私はあめさんに会いたかったのに…っ!」

「……」


インターフォン越しだからかもしれない。だから、こんなに私は言えたのかもしれない。

懐かしい、待ち焦がれていた彼の声を聞いた瞬間、今まで心の中に留めていたものが一気に溢れ出しで、その中で一番素直な気持ち、


"あめさんに会いたい”


それがまさか、こんな形で出て来るなんて。