あっという間の到着に、本当にワンメーター分だったのかと、以前のやり取りを思い出す。外の景色へ目を向けた瞬間、飛び込んできたのは背の高い高級そうなマンション。
…あれ?いや、もしかしたらとは思っていたけど、あめさんって…やっぱりお金持ち?
うちのアパートほどのボロを想像していた訳では無かったけれど、てっきりそれなりに普通のものだと勝手に思っていたから、かなり動揺した。
だから、「ここの20階が奴の部屋」と言って、何故か持っていた合鍵を使い、入口のロックを外したミトさんがスタスタと歩き出したのに、一足遅れて続いた。息を詰めてそっと歩くくらいに緊張している。
「じゃ、後は頼んだよ」
一つの部屋の前で立ち止まったミトさんは、さぁどうぞと私を促す。本当に全てを丸投げにされるとは思わなかったので、一気に頭が真っ白になった。始めにあめさんに説明してくれるものだとばっかり…一体私にどうしろというのだろう。
だってこんなの、ストーカーみたいじゃないか。玄関のオートロックを通り過ぎて、部屋の前にもう居るんだよ?連絡も無く、勝手に。家の場所だって教えて貰ってないのに。
…もう、来てしまったものは仕方ないんだけど…
そっとチャイムへと指を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。まるで空気が入った気がしない。口の中はカラカラで、指先は力の入れ方を忘れてしまったよう。…緊張する。
――ピーンポーン
軽く触れたボタンから、よく聞き慣れた呼び出し音が鳴る。家主に来客を伝える、その音。
その音が、今日はやけに大きく聞こえた。