これが二度と無いチャンスなのかもしれないという事が分かっているからこそ、私は何も答えられない。こんなの…生まれて初めてだ。
ミトさんは、答えない私に困ったような表情をした後、腕時計に目をやった。
「あぁー、タイムリミットだ」
「…え?」
「時間切れ。俺、もう行かないと」
どうやらこの後予定があるらしい彼は、特に焦った様子を見せずに言う。その言葉に焦り始めたのは私の方だった。タイムリミットなのは私も同じ。私も今、答えを出さなければならないという事。
どうしよう、どうするべきだと、冷汗をかきながら必死に答えを探すけれど、こればかりはどうにもならない。
するとミトさんは、少し考え込むような様子を見せて、「じゃあさ」と、口を開いた。
「連絡先、前に教えたよね?まだある?」
「あ、はい。もちろんです」
「したらさ、決心付いたら連絡してよ」
「良い返事を待ってるからさ」そう言い残して、彼は車に乗り込んだ。家まで送ると言ってくれたけれど、この後用事があるのにわざわざ悪いと断り、私はいつもの道を歩いて帰る。
早く決断しなければならない。この日から、私の頭の中はそれだけになった。