その時、私の耳に入ってきたのは、クスッと笑う小さな声。その声に反応して目を向けた先にあるのは、俯いて笑いを堪えるミトさんの姿だった。
「…どうしたんですか?」
何か可笑しな事でも言いました?と、訝しむ私に、「いや、悪ぃ」と、先ほど同様、悪くなんて思ってもいないだろう態度で彼は謝った。まだ笑うのを一生懸命堪えている姿には、流石に多少の腹が立つ。
「まぁ、自分でどう思おうが勝手だけどさ、これだけは言える」
「…何ですか」
「良くも悪くも、影響しない訳がねぇんだよな」
「?」
「だってアイツ、気になって仕方ねえみたいだからさ」
面白いぐらいにと、ミトさんはついに、凄く楽しそうな大声で笑った。
この人は何を言ってるんだ。気になって仕方ない?そんな事、ある訳がない。
「違いますよ」
「?」
「それは間違ってます」
「なんでそう思うの?」
否定する私を、不思議そうに見つめて尋ねるミトさん。
なんでって、そんな事は何度も考えた。あめさんに否定された後だって、私は考えた。でも結果はこれ、私はあめさんにあれから会えてない。あめさんは私に会いに来てくれない。それが全てだった。
「気になってるなら、なんで来てくれないんですか。1週間や2週間じゃなくて、もう1ヶ月も経つんです。だったらなんで会いに来てくれないんですか」
そしてあの日の事を思い出すと、いつも苦しかった。もう会いたく無いのだと、さよならをあの日に言われたのだと思うと、苦しくて仕方ない。
もう一度あの日に戻ったところで同じ結果だろうけれど、それでも間違いを取り戻せたらと願う程に、私は後悔していた。きっと私は間違えたのだ。