「俺は、ユウって呼んでる」
「…ユウ?」
「そう」
それは、私の知らないあめさんの名前だった。
「あめさん、ユウって言うんですか?」
「うん、俺はね」
「ミトさんは?本名では無いという事ですか?」
「さぁ?どうだろうね」
「アイツ個人情報明かさないからなぁ」なんて、彼はその件に関して特に関心を持っていないような態度で、煙草に火を点けながら言った。
じゃあ何で"ユウ”なんだろう。
「ユウって、名前の意味はあるんですか?」
「意味?」
「あれ。ミトさんがつけたんじゃ無いんですか?」
「違うよ。アイツがそう名乗ったから、だから意味何て分かんねぇ」
「…そうなんですか」
あめさんが名乗る事もあるのかと、また新たなあめさんを知った。知れば知るほどに、知らされなかった自分が惨めになる気がするけれど、それでも知れる事が嬉しくて、とても複雑な心境だ。
「他にも色々呼ばれてんだけど、アイツが俺に名乗ったのは "ユウ”だから。それが本名だってアイツに言われた訳じゃないし、どれが本当だかなんて分かんねぇんだよな」
そんな身近に起きるとは思えないような事を、彼は当然のように告げる。彼らの世界ではそれが普通なのだろうか。
そういえば、初めてミトさんに会った時、私の名前にミトさんは本名かを尋ねた。だからだったのか。沢山名前がある事が常識な世界は、やっぱり存在するのかもしれない。まだまだ私の知らない事が沢山あるのだ。
驚きと感動を体験する私とは正反対に、特に何も特別な感情を抱いていないミトさんは、さて、次だと、あっさり本題へ向かって歩を進める。
「ハルキちゃん。アイツと最後、いつ会った?」