気配を消して、一服中の男性の邪魔をしないように…してたのに。
「わっ、」
こんな時に限って、私は階段を踏み外したりする。恥ずかしい。本当に恥ずかしい。転げ落ちなかったから良かったけど…
と、安心したのも束の間、私は何故転がり落ちなかったのかに気が付いてしまった。
私の右側には今、一服中の男性が居る。そして私の右手の力はMAXな状態で、彼の肩を掴んでいる。
…つまり、見知らぬ彼を、おもいっきり支えに使ってしまった訳だ…私の、全体重をかけて。
「す、すみません!!」
こんなに私って反射神経良かったの?!と驚くくらいの速さで手を離し、謝罪モードに切り替わる。冷や汗が止まらない。恐い人だったらどうしよう、怒り出したらどうしよう!
焦りに焦る私。とは正反対に、隣のその人はゆっくりとした動きで私の方へと顔を向けた。
――え、うそ…だよね?
目を疑った。でも、間違える訳が無い。
見間違える事はまず無い。
だってこんなに綺麗な人、他に居る訳が無い。
彼だと認識した瞬間、私はカチカチに固まって動けなくなった。多分、緊張とか混乱とか興奮とかが一気に込み上げたんだと思う。
そんな私の前で、彼はにっこり笑った。
「あ、こないだのー」
その表情はまるで少年のよう。のんびりしたような話し方はどこか嬉しそうで、彼が見せる無邪気な笑顔に私は戸惑ってしまう。
だってこの間と、随分印象が違う。