どこか現実味を帯びない、夢見心地なふわふわとした雰囲気で、「今日は良い日だなー」と、その人は楽しそうに呟く。そんなに楽しい飲み会だったのかなと、ポツリポツリと話す彼に相槌をうちながら、覚束ない足取りを必死に支えて歩いた。


それから10分程経った頃、ようやくその人は自宅前に辿り着いた事を告げ、私は彼を家に押し込んだ。任務完了。よし、私も帰ろうと、自宅に向かおうとしたけれど…クルリと、私は来た道を引き返す。


やっぱり、もしかしたらと思ってしまう。もしかしたら、あめさんが居るかも。待っているのかも。


コロコロと変わる私の気持ちに嫌気がさしつつ、自分に振り回される様に、小走りで階段へと戻った。

もし居たのなら、聞いてみよう。あめさんについて、一つだけ聞いてみよう。もしも私を待っていてくれたのなら…


そして、辿り着いたいつもの場所。そこには、見知った姿なんて無かった。



「…そりゃあそうだよね」


掠れるくらい小さな声でそう呟くと、一気に心の中が渇いたような気がした。


「…何も無くなっちゃった」


そんな気がして、怖くなった。