あれだけずっとあめさんの事を気にしていたにも関わらず、今はあっさりと諦めている。この人を送り届ける使命感からというのも、もちろんあるけれど。でも…正直、ホッとした。あめさんと会わない理由が出来て、ホッとしている私がいるのも、事実。


確認したい気持ちはある。でも、それで違ったら?あめさんの態度が変わったら?そんな事ある訳ないって、言い聞かせる事は出来るけれど、もしもの仮説が一つ立つ。

ーーもし、あめさんが私に普段の姿を見られたくないと思っていたら、どうなるのだろうか。


だからあの時、あめさんは目を逸らしたのかもしれない。あれがきっかけで、もう次に会うあめさんは私の知ってるあめさんじゃ無いかもしれない。

考え過ぎかもしれないけれど、それぐらいにあの時のあめさんは違った。私の事なんて知らないと言われても、可笑しく無いような人に見えた。

そんな事しない人だって、思いたいけど…


「おーい、大丈夫?」


その声で、海へ潜る様に考え事に飲み込まれていっていた意識が、ハッと我に帰る。

そうだった、今はこの人を送り届ける事だけを考えるべきだ。そう心を入れ換えて、彼を支える手に力を込めた。


「大丈夫です。距離は…遠いですか?」


気持ちを切り替える為にも笑顔で尋ねる私に、彼は眠そうな表情のまま、「ううん」と、首を振る。


「もうすぐそこ。悪いね、わざわざ」

「いえ、気にしないで下さい」

「うん。本当はラッキーって思ってる」

「…ラッキー?」

「そりゃあ、こんな可愛い子に送って貰えるんだもん、ラッキーだよ。酔っ払ってて良かった」


本気だか冗談だかもよく分からない彼の言葉に、「何言ってんですか」と、笑顔のまま答えた。