「だ……アレ?」
「そう。お礼のアレ」
まるで今までのやり取りが無かったかのように、彼は大きな瞳をパチクリさせながら私に尋ねる。
それは無いよ…と心にダメージを負いながらも、あめさんに言われたのなら直ぐに鞄の中を漁り、取り出す例のお礼のアレ。
「ありますよ、もちろん」
預かっていた煙草を手に取って見せると、とっても嬉しそうに笑って、「ソレ、大事にしといて」と、あめさんは言う。
…大事に?大事にって、一体どうやって?
「…私、吸わないから煙草の大事に仕方がイマイチ分からないんですけど…」
「いーのいーの。忘れないで持っててくれれば」
「…あの…なんでですかね?」
訳の分からなさに思い切って尋ねてみる事に。すると、彼は当たり前だと言わんばかりの笑顔で答える。
「俺が吸うから」
…今日のあめさんも、一際意味不明だ。
もう私にはただ難しい顔をする事しか出来なくて、そんな私に気付いたあめさんは、「ほら、俺酔ってるみたいだからさ」なんて、今更補足説明を始める。
「ここに来る前に置いてきちゃうかもしれないし、無くなったの忘れてるかもしれないだろ?それなのに吸いたくなったら、それは大問題」
「…自販機まで、ちょっと我慢すれば良いでしょう」
「俺、あのカード持ってない」
「それは…困りましたね」
と、答えつつ、イマイチその "煙草が無い”という問題の重大さが分からない私。
「じゃあ言っておくけどハルキ君」
「はい?」
「すげぇ喉渇いた時、自販機は全部売り切れで、コンビニはすげぇ遠い。家も遠い。でも俺が飲み物持ってたらどーする?」