「良い事考えた。手、手ぇ出して」

「?はい」


急に呼び止められて不思議に思いながら、私は遠慮がちに右手を差し出す。すると、「はい、これ」と言って、彼が私の右手に握らせたのは、


「…煙草?」


そう、まだ中身がしっかりと入っている煙草。彼が普段吸っているソレ。…なんで?

余計に謎が深まって頭にハテナを飛ばす私に、彼はニコッと笑って言った。


「これ、お礼ね」

「…え?何の?」

「さっき言ってたヤツ。これハルキのお礼ね」

「?」


正直、こんなに言っている意味が分からないのは初めてだった。人生で初かもしれない。


「なんで私からのお礼をあめさんに貰うんですか。意味分かりませんよ」


思わずそう呟く私に、彼はフフンッと、所謂、"どや顔”をした。


「ハルキはこれから俺に会う時、常にコレを持ってる事」

「コレを?常に?」

「そう。それがハルキからのお礼」


その申し出になんで?と思ったのは言うまでも無い。でも、あめさんの顔を見たら、そんな事を聞く気も失せた。だって彼、物凄く満足そうな顔をしている。


「…こんな事で良いんですか?」

「そうですね」

「…分かりました、お安い御用です」


そして、今度こそ私はドアを閉めた。


その約束は――あめさんからの、きっかけ作りだったのかもしれない。